『キングスマン:ゴールデン・サークル』で改めてマシュー・ヴォーンのアクションのこれまでを振り変える。殺してるのに感動するシーンって何?(考察、分析、批評あるいは解説)
飽きずに今回もキングスマンについて。今回はマシュー・ヴォーンのアクションの流れというか、ヴォーンがやってきたアクション描写を追っていきたいなと思います。
「面白ったけど、キングスマンは前作の方がもっと面白かったな」という声が多いようので、ゴールデン・サークルもといヴォーン擁護派の記事になります。
①『キック・アス』(2010)これまでになかった過激さ
どの配給からも「残酷すぎて売れない」という理由から制作を断られた挙句、それでも我慢できずにヴォーン自らが資金調達をして作ったのが他でもないこの映画『キックアス』。
容赦なく刺す、ためらいなく撃つ!果ては木材用の電子レンジで人間を爆発させ、人を乗せたまま車をスクラップにしたり……。やはり何といっても過激さが売り。
そして過激さに拍車をかけるのは僕らのクロエちゃん。
目を覆いたくなるような残酷な行為と、それまで見たこともなかったような斬新なアクション。これを上品な子猫のように可愛らしい当時13歳のクロエ・モレッツちゃんが演じ抜く。キック・アス旋風……というよりかはヒットガール旋風の方が残した爪痕の方は大きかったのではないでしょうか?
(あと、過激なスーパーヒーロー映画の存在意義がここで証明され、後に『デッドプール』にもその意思は受け継がれていますね)
②『キングスマン』(2015)怒涛のワンカット、驚きの秘密道具
『キック・アス2』(2013)の監督は別の人(制作では参加したけど)なので割愛。『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(2011)も作家性は薄いので一旦忘れることにします。上の画像、ポスターなんですけど格好良すぎますね。欲し~
前作の『キングスマン』についてのポイントは2つ。「教会のシーン」での気の抜けないワンカット(それもノンスタントらしい)。それから世界観全体を支える魅力的なアイテムの数々。つま先の隠し刃、銃にも縦にもなる万能のコウモリ傘――挙げていけばキリがない。
キングスマン側のスパイガジェットはもちろん、敵側のガゼルもあっぱれって感じすね。義足のバネがとてつもなく鋭利、という設定をベースに柔軟性のあるアクロバティックで可憐なアクションを見せてくれます。これを演じたソフィア・ブテラはダンサーさんでもありますから、おそらくはこれも本人なんじゃないかな。時折見せてくれるブレイクダンスを取り入れた殺陣は圧巻。いま思いだしても興奮で鳥肌が立ちますね。
③『キングスマン:ゴールデン・サークル』 文脈の共有
さて、最新作について。各キャストや監督含める制作陣のインタビューなどでリフトのシーンなど、数々のアクションがノンスタントで行われたということに世界中の観客が驚かされていますが本作のアクションの真価はそこだけではないと僕は考えています。
残酷描写もそこまで多くなく(いや、待てよ、こちらの感覚が麻痺しただけ?)、そもそもノンスタントは確かにすごいかもしれませんが、それは見ている僕らには関係ありますか?別にすげーアクションを見せてくれるならスタントでも問題ないし。これがすごい違和感なんですけど、みんな口を揃えて「本人がやったらしい!」と熱に浮かされてますけど別にそこはどっちでもよくないですか?
あれを喜んでる人、ウンチク的な知識を振り回したい豆知識ヤクザにしか見えないんですよね。ハンバーガーだって美味しければ何の肉でもよくないですか?人肉は嫌だけど、それ以外なら何でも。
話が逸れました、すみません。戻します。
前作に目も慣れてスパイガジェットもそこまで新鮮味はありません。なんなら「ハッキング出来る時計があるならそれで最後のパスコード解けるだろ!」という具合にやり過ぎてプロット上の欠陥まで浮き出てしまう始末。
正直もうやり残したことは無いのでは?これ以上何をしても観客は驚かないのでは?そういった僕の杞憂を振り払ってマシュー・ヴォーン監督はまた新しい挑戦でアクションに取り組みました。ここでは主にクライマックスのシーンについて。「人が人を殺しているのに泣けてくる」というのが僕の感想ですが、皆様はどうでしたか?
このシーンがグッとくる理由。それは「アクションを通しての文脈の共有」だと思います。
結局はあるあるネタと身内ネタが一番面白いんですよやっぱり。それはどんなシーンでも一緒で。
ふたりの関係性
ハリーとエグジーの師弟関係はもはや言わずもがな。父親が不在のエグジーにとって彼が父親同然であることはもはやここで言うには及ばないでしょう。
クライマックスでは前作を含めたそれまですべての時間で培ってきた信頼関係がアクションを通して見えてきます。あちらが危なければこちらが駆けつけ、こちらがピンチに瀕すればあちらが力を貸してくれる。そうした非言語の――あるいは超言語――コミュニケーションの成功と襲撃のミッションが直結しているこのシーンは素晴らしい以外の言葉が出てきませんでした。
ヴォーンと観客との文脈の共有
そしてその二人の関係性について観客の僕たちと監督とが暗にコミュニケーションをとっているからこそ、この作品は深みがあると思います。これは最早アクションに限らず「世界を救ったらバックステージチケットをあげる」であったり「鏡にはどんな奴が映っている?」であったり、笑える箇所や泣ける箇所は前作からの引用も少なくありません。
文脈の共有。平たく言えば「身内ネタ」が最も心に刺さるのです。前作を踏み台にヴォーンは僕たち観客をキングスマンの世界の「身内」に引きこんだのです。だからこそこれまで以上の深度の表現を可能にしたのかなと思います。
そんなわけで
監督業の他にプロデューサーも務めるマシュー・ヴォーン。キングスマンに限らずともマシュー・ヴォーンが今後手掛ける映画には期待が膨らみます。続編なのかスピンオフなのか、噂は飛び交いますが何か作ることは間違いなさそうですね。楽しみです。
麻薬の話についてもアルコールや銃規制なんかの実際の社会情勢に絡めて誰か書いてくれないかな~
【コマーシャル】
マシューヴォーンについてはこんなのも書いてます。
あと、今までに僕が書いた全ての映画記事をFilmarksにまとめています。インスタグラムのような一覧画面からひと目で作品を見つけることができるので便利かと。filmarks.com
良ければこちらもご贔屓にお願いします。
おわり